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ピンクリボンNEWS japan 創刊号(vol.1 no.1)

 

遺伝性乳癌と乳房形成との意外な関係

認定NPO法人 J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動)
理事長 田中完児

 

今から15年前(1997年)にイギリスのテレビ番組を見ていました。番組の中で、当時非常に有名であったイギリス人の乳腺外科医が遺伝性(家族性)乳がんについて熱弁をふるっていました。その内容は、まず家族性乳がんの存在について、次に血縁の方で乳がんになった方がいる場合は遺伝子検査を受けてみるという方法があること、そしてもし遺伝性乳がんによる乳がんを発がんする可能性が高い場合は予防的乳房全切除を受け、その後乳房形成をすることも選択肢であること、ということでした。このころイギリスでは5人に1人の女性が生涯のうちに乳がんを発症するとされていましたので、家族性に乳がんが発生することは皆がよく知っていました。

 

ひるがえってこのころの日本はというと、イタリア人ベルノッジーの乳房1/4切除が全盛のころで、(その後円状切除、センチネルリンパ節生検が普及するのですが)予防的乳房全切除とか乳房形成なんてのは一部の乳腺外科医を除いては知識が追い付いていなかった時代でした。(現代のコペルニクス医学版といったところでしょうか?)この番組を観てずいぶん日本は遅れているなー、とため息が出たことを憶えています。でも逆にどうしてイギリスではこうも簡単に予防的乳房全切除から乳房形成まで一気に話を進めることができるのだろうとつらつら考えて、いろいろ調べ行くことにしました。すると、乳房形成の普及、とくに人工素材の乳房(プロステーゼ)や人工乳頭などのハード面での充実がイギリスのみならず欧米ではるかに日本より進んでいることを知り驚きました。日本では当時生食バッグを入れたり、自分の体の一部を入れる手術法しかありませんでした。この時に初めてこれが日本で見逃されている乳がん治療の一端であることに気づきました。

 

日本での人工乳房の歴史を紐解けば、私の拙い記憶の中では、1980年の当初は人工乳房に対する規制はあまりなかったように思います。しかし、実はこのころ欧米では人工乳房(シリコンインプラント)を巡って大論争が巻き起こっていたのです。それは人工乳房(シリコンインプラント)が自己免疫疾患や神経症状を引き起こすという大々的な訴訟が起こされたためです。(これが原因で製造元のDow Corning社が倒産してしまいました。)日本もこれにならって危険回避のためか、その後使用が中止されてしまい、この分野で世界から大きく後れを取ってしまったという感じがします。この訴訟問題はその後1980年代、1990年代の長きにわたって論議を巻き起こしましたが、結論として自己免疫疾患や神経症状とは因果関係がないことが明らかとなり、FDA(US Food and Drug Administration)もこの声明を出しています。これを受けて欧米では人工乳房(プロステーゼ)を使った乳房形成が乳がん治療の分野でグーンと進んでいったのだと思います。その背景にあるのは、なんといっても乳がん術後の乳房形成へのニーズが高いといったことなのでしょう。

 

すこし余談になりますが、遺伝性乳がんの頻度は、一昔前までは乳がんが欧米人に多く日本人に少ないので、日本人には少ないだろうと思われていました。しかし、よく調べてみると日本人でも欧米人と同じ率(乳がん全体の約8%)で遺伝的に乳がんが発症するということが分かってきました。 話をまたもとに戻します。ある日、イギリス人の乳がん患者さんがご主人の赴任で日本に来られ、日本での術後のフォローを希望されて来院されました。その方は、家族の中でお母さん、お姉さん、双子の妹さん、が全員乳がんという家系で、ご自身も右乳房に乳がんできてしまい、右乳房の全切除と左乳房の予防的全切除を受けられていました。当然、両方の乳房は見事なまでに形成されていて、手術を受けたのかどうかわからないぐらいでした。乳房をたとえ取り去ったとしてもまた新たな乳房を蘇らせる。つまり、乳房を単なる臓器としてではなく、美的存在としてトータルにとらえるレベルの高いコンセプトに驚かされました。