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ピンクリボンNEWS 2号(vol.1 no.2)

 

乳癌検診の個別化と最新画像診断装置

神戸アーバン乳腺クリニック
奥野 敏隆

 

3年前のことです。「40歳になったので乳癌検診を受けたら、引っかかりました」とMさんが私の診察室に飛び込んでこられました。 Mさんのお母様も10年前に乳癌で手術を受けておられます。そのとき、「ひょっとして、遺伝?」とはっとしました。というのは、お母様は両側乳癌で、さらに、伯母さんも乳癌で私の患者さんです。明らかな家族集積性と両側性、若年性といった遺伝性乳癌の特徴があったからです。Mさんには遺伝性乳癌の可能性についてお話ししました。遺伝子検査は行っておりませんが、娘さんには自己検診を指導するとともに、25歳から乳癌検診を受けるようにお願いしております。幸い3人とも癌の再発なくお元気です。

 

Mさんのように乳癌になる可能性が高い集団、すなわちハイリスクグループに対する乳癌検診について、昨今研究が進んでいます。乳癌発症の危険因子(リスク)として、1.乳癌の家族歴、2.胸部への放射線治療歴、3.乳腺腫瘤に対する生検既往歴などが挙げられます。なかでも乳癌の家族歴が重要です。乳癌は遺伝性素因により発症する遺伝性乳癌と、これには関係なく発症する散発性乳癌に分けられます。家族歴のある方は遺伝性乳癌である可能性が20数%あるといった研究結果もあり、その場合は一生のうちに乳癌を発症する可能性は36〜80%に及びます。遺伝性乳癌には両側性、若年発症、トリプルネガティブ(ホルモン感受性陰性、HER2蛋白発現陰性)が多いといった特徴が有り、これらの特徴に則した検査法を要します。乳癌検診において最も広く用いられているマンモグラフィは乳腺が厚い若年者では病変の検出力が劣ります。超音波は検査に伴う負担が少ないですが、客観性・再現性が乏しいとされています。

 

そこで注目されているのがMRI(核磁気共鳴画像法)です。造影MRIの乳癌検出力はマンモグラフィや超音波よりもはるかに優れているからです。 乳癌ハイリスクグループに対するスクリーニング検査として、マンモグラフィ単独では感度(乳癌であると診断する確率)52%、特異度(乳癌でないと診断する確率)91%、マンモグラフィと超音波の併用では感度76%、特異度84%であるのに対して、これらにMRIを追加すると感度100%、特異度65%といったデータがあります。 MRIを追加すると、乳癌の拾い上げには有用であるものの、良性を乳癌と誤って判断する傾向が高くなります。また、MRIの装置はマンモグラフィや超音波のように普及していません。さらに、検査に要する費用は10倍近く違います。

 

このようなことを踏まえ、日本乳癌検診学会が中心となって乳癌発症ハイリスクグループに対する乳房MRIスクリーニングに関するガイドラインが制定されました。そこには任意型検診(がん検診には行政主導で行う「対策型検診」と人間ドックや職場健診など、健康診査を目的とした「任意型検診」があります)で行うこと、質の高い乳癌の診断・治療を行うことのできる施設で行うこと、造影検査を行うこと、などが明記されています。MRIで見つかった病変に対する組織生検も課題です。 超音波診断装置の分解能および画像処理技術の進歩により、MRI画像を参照しながら超音波で微小な病変を見つけるセカンドルックエコーも広く行われるようになりました。また、MRIと超音波画像をコンピュータでリアルタイムに同期させるReal-time virtual sonographyを用いてMRIで発見した病変を超音波で同定し、超音波ガイド下に穿刺生検を行う試みも行われています。

 

─個々のリスクに応じた乳癌検診の個別化とそれを支える超音波、MRIといった最新画像診断装置─、診断・治療の個別化といった今後の乳癌診療の大きな流れを、乳癌検診においても垣間みることができます。「あなたにあった検診はこれです。」と言ってもらえれば、乳癌検診を受けようと思いませんか?