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ピンクリボンNEWS 3号(vol.2 no.1)

 

遺伝性乳がん:遺伝子検査やカウンセリング、あれこれ

認定NPO法人 J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動)
理事長 田中完児

 

日本の乳がんは相変わらず増えています。日本での乳がん罹患者は年間60,986人(2007年)、死亡者は12,838人(2011年)という数字です。海の向こうのアメリカでは2013年の推定乳がん罹患者数は234,580人、死亡者は40,030人です。

 

日本の数も多いですが、やはりアメリカの乳がん事情は半端ではありません。それだけ乳がんについての関心も非常に高いことが容易に推測できます。アメリカのニュース番組などを見ていますと乳がんについての記事をよく目や耳にします。最近では、昨年の12月にタモキシフェンの投与期間が現行の5年服用よりも10年のほうが無病再発期間や全生存率が良くなることをいち早く大々的に取り上げていたのは非常に印象的でした。

 

さて今回のメインテーマは、日本でも少しずつ認知度が高くなりつつある遺伝性乳がんについて、特に検査の内容やそのタイミング、さらにはカウンセリングについてです。ご存じの方もおられるかと思いますが、乳がんの約8%(1割弱)は遺伝性に発生します。前述のごとく2007年の推計で日本人の乳がん罹患者は約6万1千人、この中の1割の約6千人のかたが遺伝性による発症です。ちなみにアメリカでは約2万人が遺伝性乳がんです。なんともすごい数です。この数の人たちだけでも乳がんの発症を早期でくい止めることができればそれは乳がんから命を救う大きな一歩になるでしょう。ですから進んで遺伝子検査を受けましょう!、というふうにはなかなか進んでいかないのが現実です。

 

なぜなら、そのひとつの理由に社会的な問題があります。アメリカでは昨今遺伝子検査を受ける人が増えています。しかし、かつては医療保険や生命保険に加入するために強制的に遺伝子検査を会社から受けさせられたり、もし遺伝的に陽性であれば保険への加入を断られたり、ひどい時には会社を解雇されたり、といった、社会的な差別をうける受難の時代もありました。しかし、2008年に遺伝情報差別禁止法が制定されて以来、国民の遺伝情報が保護され差別的な用途に利用されないことが保障され、遺伝子素因によって人を差別することは法律で禁止されるようになりました。

 

ちなみに日本ではこういった問題はあまり整備されていません。 ふたつ目には、心理的負担があります。みなさんが健康診断で血液検査を受けるような感覚で遺伝子検査も受けられれば良いのですが、そうはなかなかゆきません。というのも結果の如何によってはそれが自分や家族に重くのしかかってくるからです。つまり受ける方にとってはストレスの大きい検査なのです。

 

ここで、実際の遺伝子検査について少し述べてみたいと思います。乳がんを発症する遺伝子は現在のところ幾種類か発見されています。その中でも、一般的に行われている遺伝子検査はBRCA1(ビーアールシーエー・ワン), BRCA2(ツー)を調べるものです。BRCA1と2はもともと乳腺細胞のダメージを修復して正常な成長へと導く遺伝子なのですが、これが異常を来したり突然変異を起こすと乳がんに発展するというものです。検査の方法は普通の血液検査と同じで採血をするだけです。もし、乳がんになるリスクが高い女性にBRCA1またはBRCA2の異常が発見されれば、生涯の内で乳がんになる確率は最高で85%あるとされています。この乳がんになるwリスクが高い人とは、例えば、親族の中に1.乳がんや卵巣癌になった女性が複数いて、特に若い年齢(特に50才以前)に発症した人がいる場合、2.両側の乳房に乳がんができた人がいる場合、3.乳がんと卵巣癌を発症した人がいる場合、4.男性の乳がん患者さんがいる場合、などが該当します。

 

さて、どのタイミングでこういった検査をするべきなのか、ということも問題になります。自分が遺伝性疾患の体質を持っているかもしれないということを調べるわけですから、結果を知ることに対してある程度の覚悟が必要になるでしょう。ですから、今では検査を行う前に十分なカウンセリングを行うことが必須となっています。例えば、カウンセリングの中で、乳がんの特長・BRCA遺伝子と乳がんのリスク・遺伝子検査・乳がんの治療、についてどれだけ知っているか、また乳がんに関わる心理的ストレスの状態・遺伝子検査を受けるにあたっての心理的葛藤、などについても調べてゆきます。このようなプロセスを経たのちに検査を受けるか否かを決めます。

 

このように遺伝子検査はいくつもの段階を経たのちに行われるものです。 次の時代への扉を開いて第一歩を歩みだす開拓者は多くの試練を経験しますが、この乳がんの遺伝子検査を受けるかたがたも同じ試練をされているのかもしれません。しかし、これから来るべき未来の新しい診断方法のひとつの扉を開けようとしていることは間違いないでしょう。