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ピンクリボンNEWS 13号(vol.4 no.3)


乳癌術後の乳房再建の現状について

関西医科大学附属滝井病院 形成外科
田中 義人

日本の乳房再建の歴史において、2013年にエポックメイキングな出来事がありました。乳房インプラントの保険適応です。これによって乳房再建の敷居がぐっと低くなり、私の病院でも乳房再建を希望される患者さんがさらに多くなりました。かつては乳がん手術を行う病院の一つのステータスとなっていた「乳房温存率」よりも、最近ではむしろ「乳房再建率」が注目されてきています。

乳房再建は、自分の脂肪、筋肉、皮膚などの自家組織を用いた乳房再建と、乳房インプラントを用いた乳房再建の両方が保険適応になったことで、治療の幅が一気に広がりました。しかし、乳房インプラントを使えばすべての乳房が再建できるかというとそうではありません。今回は、乳房インプラントと自家組織による再建のそれぞれの特徴と保険適用などについて説明します。

乳腺は皮下の脂肪層に囲まれ、その下には大胸筋があります。インプラント利用では、人工物を体内に入れると周囲に組織のひきつれを生じるため、乳房インプラントは大胸筋の下に挿入します。このため乳房インプラントで下垂乳房を作成することは困難となります。一方、自家組織はもともと乳腺があった皮下に挿入することで、自然な乳房を再建できます。

自家組織再建では、移植する組織に血流が必要です。皮膚や脂肪を養う血管は、筋肉内を走る血管から分岐したものです。この血管を軸に筋肉、脂肪、皮膚を一体に移動できる筋皮弁があります。

これには、背部から採取する広背筋皮弁や腹部の脂肪と共に移動する腹直筋皮弁などがありますが、現在では筋肉を含めず、脂肪と皮膚およびそれらを養う血管を一塊に採取し、胸の血管と手術用顕微鏡下で血管を吻合し血流を再開させる遊離皮弁が多く使われています。いずれも保険適応ですが、手術時間や入院期間が乳房インプラントと比較して長く、手技も煩雑となりますので、施設によっては行っていないところもあります。

乳房再建の比較表

  乳房インプラント 自家組織
長所
・他部位に傷がつかない
・乳房の大きさが比較的自由に再建できる
・社会復帰が比較的短期で可能である
・自然な形態(下垂など)が得られやすい
・温かい乳房が得られる
・柔らかな乳房が得られる
・完成すればメンテナンスが不要である
短所
・感染や破損するリスクがある
・ピッタリの大きさがない可能性あり
・メンテナンスが必要(約10年毎入れ替えなど)
・下垂乳房が作れない
・やや硬い乳房が得られる
・多くは2回手術が必要である
 (エキスパンダーからの入れ替え)
・採取部に傷が残る
・目指す乳房の大きさによっては実現できない
・術式が多様で複雑である(施設によっては行っていない)
・入院期間、手術時間が長い
・社会復帰に比較的日数を要する

では、ケース別に再建方法を検討してみましょう。

《下垂乳房の場合》

先述の通り、下垂乳房を乳房インプラントで再建することは困難です。左右の対称性を気にしなければ使用することは保険で行うことはできます。しかし、対称性を求める場合反対側の乳房を調整する手術を要しますが、保険適応ではありません。自家組織再建は多くの場合、自然な形態で再建することが可能です。

《大きな乳房のケース》

大きな乳房の場合、下垂しているケースが多いため、乳房インプラントを使用する場合は反対側の乳房に対して調整する手術(乳房固定術など)が必要となることがあります。 自家組織再建では腹部皮弁で対応できることがほとんどですが、痩せ型の方はボリュームが不足する場合があります。 乳腺部分切除(乳房温存)の場合、乳房縮小術を応用して腫瘍切除と同時に左右の乳房を整えることが可能な場合がありますが、混合診療となりますので原則的には全てが自費診療となります。

《きれいな乳房を取り戻すには》

乳がん切除したのちに、乳房再建を希望される患者さんも増えてきています。乳がんと判明した時は再建なんか考える余裕がなかった、家族が再建なんてどうでもいいでしょという雰囲気で自分の意思を通せなかった、など様々な理由があることでしょう。また、乳房温存術と聞いて、乳房の形態は保たれると思っていたのに、実際には変形してしまった、という患者さんも多いと思います。
実際のところ、乳がん手術と同時に再建する場合と異なり皮膚が萎縮しているため、難易度は上がりますが、かなりきれいな乳房を再建することが可能です。
皮膚に放射線照射されていなければ、まずエキスパンダーという皮膚を拡張するシリコーン製の風船を留置し、外来で生理食塩水を注入し皮膚を十分伸展させた上で、インプラントや自家組織で再建することが可能です。ただし、すでに放射線治療されている場合、皮膚が伸展しにくいため、自家組織再建を選択した方が整容的に優れた乳房が作成しやすいこともあります。
温存術後の変形に対して、脂肪注入は保険適応外です。保険適応の術式としては広背筋皮弁が一般的ですが、私の施設では背部の皮膚および脂肪のみを用いたTAP flapを積極的に行っています。
乳がんの手術時に乳輪乳頭が切除された場合でも再建は可能です。ほとんどの場合保険適応ですが、医療用のタトゥーで乳輪様にする場合は自費になります。

いずれの術式も利点、欠点があります。早く社会復帰がしたい、反対側の乳房は触ってほしくないなど、患者さんご自身が目標を持って医師と相談することが大切です。より良い乳房再建を求めるのであれば、乳腺外科医と形成外科医の連携を密に取り合っている施設で、乳房再建の経験数が多い形成外科医に執刀してもらうことが重要でしょう。

近年、試みとして乳房再建の手術では、吸引した脂肪を乳房に注入する再建がなされています。医療特区や再生医療の認可を受けた施設で脂肪幹細胞を脂肪に混合して注入したり、術前にBravaRという体外吸引装置を装着するなどして生着率を上げる努力もなされています。これらは保険適応外に位置づけられています。今後安全で確実な方法がより明らかになり、限りなく低侵襲(体の負担が少ない)で乳房再建が可能な時代がくるかもしれません。