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ピンクリボンNEWS 15号(vol.5 no.1)

 

超音波でヒトに優しい乳がん検診を

西神戸医療センター 乳腺外科
奥野 敏隆

 

日本の女性にとってうれしい知らせがひとつ、届きました。

 

乳がん検診において、マンモグラフィに超音波を追加すると乳がんの発見率が飛躍的に向上することが、日本で行われた臨床試験(J−START※①)の結果として著名な医学雑誌The Lancetに報告されました。乳がん検診において、現在の標準的な検査法はマンモグラフィです。しかし、マンモグラフィは日本人女性、なかでも乳がんの発症しやすい年齢である40歳代の比較的若い女性においては背景の乳腺と乳がんの区別がつかず、発見できない場合が30%ほどありました。

 

そのような場合でも超音波は乳がんと乳腺とを区別して発見することができます。そこで、40歳代の日本人女性7,299人を対象に乳がん検診においてマンモグラフィに超音波検査を追加することの有用性を確かめる臨床試験(J-START※①)が行われました。マンモグラフィで発見できた乳がんが117人(0.3%)であったのに対して超音波検査を追加すると184人(0.5%)、なんと67人も多く発見できました。

 

そしてステージ0、1といった早期乳がんが71.3%を占め、マンモグラフィだけの52.0%よりも大幅に多くなりました。超音波検査が早期乳がんの発見率を高めることが明らかになったのです。超音波は放射線の被曝もなければ、検査に伴う痛みもほとんどありません。しかし手放しでは喜べません。超音波検査を追加すると特異度(良性の病変を正しく良性と判断できる頻度)が91.4%から87.7%に低下しました。その結果、良性なのに不要な精密検査を受けた受診者が増えました。

 

またがんかどうかの確定診断目的に細胞診や針生検といった穿刺生検を受けた受診者も1.8%から4.5%に大幅に増えたのです。乳がん検診に超音波を組入れるにあたっては、このような受診者の不利益を減らす方策を講じる必要があります。そのひとつの試みがマンモグラフィ・超音波の総合判定です。

 

たとえばマンモグラフィで腫瘤(しこり)のようにみえる「局所的非対称性陰影※②」を指摘しても、超音波でその部位になにも認めなければ精密検査としない、また超音波でほぼ確実に診断できる嚢胞(乳管が袋状に拡張して水がたまったもの)を描出した場合、マンモグラフィで腫瘤として映っても取り上げないといった具合です。それぞれの所見を相補的に組み合わせて良性病変を拾い上げすぎることなく乳がん発見率を高めようとするものです。

 

さらに超音波検査は嚢胞以外にもマンモグラフィでは見つからない病変をたくさん映し出します。これらに対しては血流をみるカラードプラ法や柔らかさをみるエラストグラフィを、超音波検査の基本となるBモード※③法に追加すると診断能の向上が期待できます。しかし、このような高度な手法を普及させるには標準化と教育システムの構築が喫緊の課題です。

 

超音波のプローブ※④を優しくあてて、言葉を交わしながら検査を行い、そして的確に診断すれば、たとえがんであっても患者さんはがんばって病気に立ち向かえるでしょう。がんでないのならば「大丈夫ですよ」と自信をもって伝えることができれば、患者さんは安心して幸せな気分になるでしょう。

 

─ 超音波で世界を平和にする ─、私の夢です。

 

 

用語解説

※①J-START厚生労働省による乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するプロジェクト。2007年7月~2013年3月まで行われた。

※②局所的非対称性陰影マンモ検査で片方に影が映って反対側に影がない場合です。