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ピンクリボンNEWS japan 18号(vol.5 no.4)

 

乳がん診療の15年

日本医科大学武蔵小杉病院
乳腺外科
蒔田 益次郎

 

J.POSHの活動が15年目の節目を迎えたということで、日本での乳癌診療の移り変わりを振り返ってみました。

 

15年前ということで2001年当時の罹患者数は、がん情報サービスのデータによりますと約4万人でしたが、現在では8万人を超えており、「11人にひとりがかかる」と言われるようになりました。また、最近はマスコミでも乳がんの話題が多くなってきたと感じます。一方15年間で、乳がんの治療成績はどう変わったでしょうか?乳癌の全国年齢調整死亡率(昭和60年日本人モデル人口、対人口10万人)は2000年10.7に対し2014年11.8で、1985年の7.6からすれば急激な上昇は無くなり横ばい状態になってきたようです。おそらく近い将来には欧米諸国と同様に死亡率の減少傾向が明らかとなってくることが期待されます。

 

乳がん死亡率の減少に寄与しているものとして、検診と薬物療法の進歩があります。

 

検査技術の変遷

日本でも2004年からマンモグラフィ検診が導入されました。マンモグラフィで検出される微細な石灰化病変に対して、ステレオガイド下針生検が行われ、多くの早期乳癌が診断されるようになりました。ステレオ撮影という技術は昔からありましたが、吸引式針生検装置が開発されて穿刺部位から何本もサンプルが採取できるという技術も寄与していると思います。昔はマンモグラフィに定規を当てて計測した距離を頼りに生検をし、その次の時代はステレオ撮影下にフックワイヤーという針金を刺入して、その先端を頼りに生検するという時代でした。マンモグラフィ検診で発見された石灰化は、この装置により容易に生検できるため、検査件数は急激に増加し、非浸潤性乳管癌(Ductal Carcinoma in Situ; DCIS)の比率もこの15年間で5%くらいから10~20%というところまで上昇しています。

 

薬物療法の変遷

 

薬物療法もアンスラサイクリン(アドリアマイシン)、タモキシフェンの時代からLHRHA(黄体化ホルモン放出ホルモンアゴニスト、商品でいうとゾラデックスやリュープリン)、タキサンが加わり、2000年を超えると新しいアロマターゼ阻害剤(アナストロゾール)が登場し、HER2(ハーツ―)陽性乳癌の治療成績を改善させたハーセプチンも保険適用となりました。薬物療法の選択についてもリンパ節転移などの進行度やリスク因子に照らし合わせていた時代から、薬剤の感受性、そしてサブタイプ分類に基づいたより効果のある治療法へと進化してきました。とくにハーセプチンをはじめとする分子標的療法の開発は盛んに行われ、治療成績の向上へとつながっています。ハーセプチンは出た時に「夢の抗癌剤」と謳われたほどでしたが、つらい副作用がなくて効果のある患者さんに優しい治療の実現がさらに発展しています。

 

手術の変遷

 

手術についても1980年代後半から導入された乳房温存療法が定着し、2000年頃からは乳房切除と部分切除がほぼ半々という比率になってきました。さらに乳房切除に対する乳房再建も、エキスパンダー挿入やシリコンインプラントが保険適用となったために最近急激に増加してきています。乳房は形が残る時代になってきました。また、センチネルリンパ節の導入と普及があり、腋窩を郭清する症例の割合はぐっと小さくなり乳癌学会のデータからも3割前後(2014年、28.9%)となってきました。さらに進んで、乳房温存で放射線治療を前提とすれば、少数個の転移では郭清を省略するという時代になってきました。このように手術は縮小化の一途をたどっています。

 

 

乳癌研究会に端を発する乳癌学会も来年は25回目の総会が開催されます。乳癌取扱い規約に始まった研究者たちの活動は治療成績の向上に向けて、EBM(Evidence based medicine)が語られるなか診療ガイドラインを策定するようになりました。そして2004年に日本で初めて「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン」が発行されました。その後2006年には「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」も発行され、10年余りが経過していくなかで、乳癌治療は患者さんと一緒に考えるようになってきました。昔はほとんど医師のみの乳癌学会という集会が、今はメディカルスタッフに加えて患者さんも一緒に会に参加しています。

 

癌という病名の告知もなく手術が行われていた過去も、今は病名の告知は当然のこととなり、治療法の選択を患者さん自らが行う時代になりました。そして、緩和医療がシームレスに行われるようになり、Advance Care Planningなど患者さんに残される時間を大切にすることも始まっています。

 

癌患者さんの就労という点でも今年はガイドラインができて大きな進展がありました。乳癌患者さんと医療従事者のつどい~With Youも東京では今年は15回目でした。等々。

 

こう振り返ってくると乳がん診療は乳がん患者さんに優しく向き合ってきたのであります。今後も患者さんに優しい治療法などがどんどん出てきてくれるという期待に胸が膨らみます。さあ次の15年はどのような変化が起こるでしょうか。