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ピンクリボンNEWS 23号(vol.7 no.1)

 

乳がんと妊孕性(にんようせい)について

関西医科大学
産科学婦人科学 主任教授
岡田 英孝

 

がんの診断や治療の進歩により、若い女性の乳がん体験者が増えています。日本では、未婚・晩婚・晩産化が進んでおり、乳がん診断時に挙児希望のある女性は少なくありません。薬物療法、放射線照射、手術などの治療により、月経の調子がおかしくなる、妊娠しにくくなるなど、日常生活の中で直面するさまざまな問題が出てきています。

 

今回のTopicsである「妊孕性(にんようせい)」への影響は、女性にとって人生を左右する大きな問題となっています。妊孕性とは、すなわち生殖機能であり、女性の場合は卵巣機能となります。卵巣には重要な2つの役割があり、女性ホルモンを分泌することと、そして排卵すなわち卵子を産生することです。

 

がん治療により、卵巣機能(妊孕性)の低下する可能性があります。女性ホルモンの分泌低下による不足には、がん治療医と相談しながら、産婦人科で女性ホルモン薬を処方して補充することができます。飲み薬、貼り薬(貼付剤)、塗り薬(ジェル)があります。

 

もう一つの機能である排卵が無くなると、妊孕性の喪失となります。注意して頂きたいのは、排卵(月経)があっても妊娠できるとは限らないことです。卵巣機能は、加齢とともに自然に低下していきます。妊孕性は35歳くらいから低下して、自然妊娠は42歳以上で困難となります。乳がんの治療期間は、内分泌療法により5~10年間と長期にわたります。治療による直接的なダメージだけでなく、加齢による影響を考慮にいれる必要があります。がん患者さん、特に若い女性の妊孕性温存は、重要な課題となっています。

 

近年、体外受精などによる生殖医療の件数は増加の一途をたどっており、日本では生まれてくるお子さんの20人に1人が生殖医療を用いた妊娠・出産となっています。このような目覚ましい生殖医療の進歩により、精子・卵子・受精卵(胚)・卵巣組織を凍結保存することが可能になってきました。パートナー(夫)がいる場合には、受精卵の凍結保存が推奨され、パートナーがいない場合には、未受精卵子の凍結保存が考慮されています。卵巣組織凍結はまだ研究段階であり、現時点では慎重に適応を選択する必要があります。

 

乳がん治療を優先する中で、限られた期間内で妊孕性温存についての選択肢を考えて頂く必要があります。未受精卵子や受精卵の凍結保存のために、卵子を回収するまでに2週間ほどかかります。医療保険は適用されませんので、自費診療(30万円~)となり経済的負担は大きくなっています。また、がん治療後の妊娠・出産を考えて、施設によって異なりますが、治療前の卵子凍結は40才まで、受精卵凍結は50歳までと年齢制限を設けています。なお、妊孕性温存のための新しい技術は、一般診療として確立していないので、すべての医療機関で提供しているわけではありません。

 

乳がんを経験されることは、大きな不安を抱えながらも、ご自身の人生設計や家族計画を考え直す機会になろうかと思います。妊孕性温存や将来の妊娠・出産については、生殖医療医とご相談の上、最終的にご自身で選択して頂くことが大切です。そのためにも、患者さん、がん治療医、生殖医療医、医療スタッフなどが一体となり、ネットワーク作りや情報の共有、心理的サポートなどの社会的な取り組みが重要となります。妊孕性や生殖機能の温存治療について相談したいあるいは情報を知りたいときには、がん治療を受ける患者さんや治療を提供する医療者に向けて、大阪がん・生殖医療ネットワーク(http://osaka-gan-joho.net/oo-net/)あるいは日本がん・生殖医療学会(http://www.j-sfp.org/)のホームページがありますので、是非ご覧ください。