ピンクリボンNEWS

  • ピンクリボンNEWS

26号 vol.7 no.4

icon
PDF

泌尿器科医師から見た 「乳癌」

私は、市立ひらかた病院で泌尿器科の主任部長として、たくさんの前立腺癌の患者さんを診療しています。ある日、ピンクリボンNEWSの編集委員の方に、泌尿器科から見た乳癌についてのコラムの執筆を頼まれました。女性の乳癌患者さんに、関わっていない私が書いたコラムが、どれだけお役に立てるかわかりませんが、今までのコラムと違った視点があるかも知れません。少しの間、お付き合いください。

女性にとっての乳癌、男性にとっての前立腺癌は性差がありますが、罹患した場合の考え方に共通するところがあるように思います。その点から少し考えてみました。

日本人の二人に一人がかかる癌。前立腺癌は一般に高齢の男性が罹患するため、高齢化に伴って増加しています。手術療法や、放射線治療の選択肢もありますが、合併症や効果からホルモン療法を選択される患者さんが多くおられます。以前はホルモン療法として外科的に精巣を摘出していましたが、現在では注射や内服薬で男性ホルモンを去勢レベルにまで下げて、癌を長期にコントロールすることが可能となりました。男性ホルモンの分泌が低下してしまうと、体に変化が見られます。まず、性機能が減退して、勃起しなくなり、ペニスの萎縮も見られます。女性に興味がなくなったとおっしゃる患者さんもいます。髪の毛が薄かった方は、増毛傾向が見られ、体重も少し増えて、顔つきもふっくらします。すね毛や腋毛は薄くなり、皮膚の油気がなくなって、少し乾燥肌になります。運動を趣味にされていた方は、筋力の低下を訴えられます。女性に対する興味がなくなった時点の性機能の低下は、本人にとっては苦痛ではないかもしれません。でも、男性としてのシンボルのペニスが萎縮してしまい、女性に興味がなくなると、どこか寂しい気持ちを持っている男性が多いようです。一方、釣りや絵画などの趣味がある方は、ホルモン療法の影響を感じさせないほど、生き生きと毎日をおくっておられます。

ここで女性にとっての乳癌について考えてみます。乳癌は女性の晩婚傾向や独身率、子供を産む回数の減少により、乳癌になる女性の率は上がっていくと考えられます。また、個人のすべての遺伝子を詳しく解析できる時代になり、将来の乳癌になる確率も、ある程度分かるようになりました。女性にとっての乳房は、女性のアイデンティティー、またはシンボルと考えている方も多いでしょう。手術でそれがなくなるとすれば、かなりの精神的、肉体的ショックを受けることでしょう。乳癌になってしまったものを元に戻すことはできません。覚悟を決めて、病気にどう対応するかが大切だと思います。今までに乳癌にかかって、縮小手術を受けた人、根治的な拡大手術を受けた人、手術ができなかった人など、いろんなタイプの人がいて、それぞれ、どう対処して、どうなったか、参考になる文書が残っているはずです。患者会やインターネット上にもコミュニティーがあります。このピンクリボンも力になってくれます。人間は一人では生きていけません。人とのかかわり合い、協力や助け合いで社会が成り立っているのです。一人で悩まないで助けを求めたり、精神的、肉体的にどのように自分を支えていくかを考えることで、道が見えてきます。検索サイトも、きっと役に立つでしょう。その道をどう歩くかの自由をあなたは持っているのです。ガイドラインの標準治療があなたにとって一番いい治療とは限りません。自分で医学の知識を得ることもできる。主治医の先生とよくお話して、治療を自分で選択することもできます。治療しない選択肢を選ぶ患者さんも実際おられます。痛くなった時や苦しくなった時は苦痛を取り除く方法があり、癌で苦しむ時代は過去のものとなりつつあります。

自分に用意された未来に続く道をどっちへ行くか、どのように歩くかは自分で決められます。病気のことで下を向いて、立ち止まっていても、いいことは待っていません。しっかり前を見て、明るく歩きましょう。あなたは決して一人ではないはず。助けてくれる人や、言葉、本があるはずです。求めれば、明るい道が見えてきます。

前立腺癌の患者さんを多く見てきて感じていることは、なにか打ち込める大好きな趣味を持っている人は、病気の経過や治療への反応性が良いことです。テニス、ソフトボール、釣り、読書など。私の患者さんの中には、前立腺癌でリンパ節や骨にも転移が見られ、進行した状態だと考えられた方が、奇跡的に治癒したことも経験しています。この方は高齢ではありましたが、現役のスポーツ選手でチームを率いておられました。痛みや悩みがあっても、自分の好きなことに没頭すると、その間は苦しみを忘れてしまっていることが科学的に分かってきています。このことは、乳癌の患者さんにも当てはまるはずです。

年齢を重ねれば、病気や老化、骨、関節の不具合、認知障害など避けられないことに対処が必要になってきます。自分に与えられた未来が明るいものになるよう、しっかり生きていきましょう。未来は今から来るものなのです。あなた次第で変えられます。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

市立ひらかた病院 泌尿器科
主任部長
和辻 利和