ピンクリボンNEWS

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2020年 夏号(32号 vol.9 no.2)

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腫瘍内科からみた乳がん

和泉市立総合医療センターで腫瘍内科として診療を行っています。今回は「腫瘍内科からみた乳がん」ということでご依頼をいただきましたが、病院では腫瘍内科だけでなく、がん遺伝子診療部門で遺伝性腫瘍(遺伝性乳がん卵巣がん症候群など)の診療も行っています。その視点からみた乳癌についても記載したいと思います。

腫瘍内科からみた乳がん診療

以前は外科切除が中心であったがん治療でしたが、1890年代より放射線治療が、1960年代より化学療法が出現し、大きくがん治療は変貌しました。手術、放射線、化学療法を組み合わせていくことで飛躍的に治療効果は上昇しています。なかでも最近の化学療法の進歩には目を見張るものがあります。新規薬剤としてはノーベル賞でも有名となった免疫チェックポイント阻害剤が有名です。従来とは異なる作用機序※を有する薬剤が多数出現し、予後※の改善に役立っています。一方で、新規薬剤については今までとは異なる副作用を有することも一般的です。そのため化学療法をより専門的に行うことが必要になり、それを行う診療科が腫瘍内科となります。放射線には放射線治療医がいるように、化学療法には腫瘍内科医が癌の種類に関わらず適切な化学療法を提供しています。また治療以外にも乳がん診療では術後のリンパ浮腫や遺伝性腫瘍へのフォローアップなど治療に付随して必要性が出現する部門も存在します。複数の診療科や部門が連携するチーム医療の重要性が言われていますが、がん診療の中で乳がんが最もチーム医療が必要ながんであると考えています。腫瘍内科はそのチームの中で化学療法を専門的に対応する診療科になります。今後も乳腺外科と連携し、より良い治療をより安全に提供できるよう診療を行っていきます。

がん遺伝子診療部門からみた乳がん診療

2人に1人ががんになる時代と言われていますが、全てのがんのうち5~10%は遺伝的要因によって発症すると考えられています。これはがんそのものが遺伝するという意味ではなく、がんになりやすい個性が遺伝する(次世代へ引き継がれる)という意味です。その代表的な疾患として遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)やリンチ症候群(LS)があります。こういった疾患群を総称して遺伝性腫瘍といいます。

従来、遺伝性腫瘍については濃厚な家族歴を有するがん患者やその家族に対しての予防医学として行われてきました。そのため疾患に対する情報提供は非常に限定された患者にのみ行われてきました。しかし、HBOCの発がん機序※を治療ターゲットとした薬剤(オラパリブ)が開発され、2017年10月にオラパリブとともに治療適応を判断する目的でHBOCの原因遺伝子であるBRCA1/2遺伝子検査が保険でみとめられました。再発乳がんと言う条件はありますが、遺伝性腫瘍の原因遺伝子を保険診療で行うことができるようになったことはHBOC診療にとって大きな一歩になりました。

この大きな一歩から2年6か月後、2020年4月にHBOCの診断を目的としたBRCA検査も保険適応となりました。保険適応の条件は以下に示しますが、よりたくさんの乳がん患者にHBOCの情報を提供するとともにBRCA検査を提供できるようになりました。またさらに大きな一歩として、HBOC患者への予防的乳腺摘出術や予防的卵巣卵管摘出術が保険適応になりました。卵巣がんは早期発見が非常に困難で、HBOCにおいて死亡率低下のためには予防的卵巣・卵管摘出が唯一の方法でした。しかし、その高額な治療費(自費診療で約100万円)のため施行できない患者がほとんどでした。今後は乳がんや卵巣がんの早期発見ではなくその発症そのものを外科的処置で予防することが可能になります。

HBOCはがんになりやすいことから予後※が不良な患者であると考えられていました。しかしその患者さんががんの発症する可能性が高いことを知ることで、早期発見や予防的治療をすることが可能な疾患になりました。適切に対応することで通常よりも予後※が良好であるという報告もされています。遺伝子を調べることには抵抗があるかもしれませんが、知らずにそのままにしておくことが最も良くないことであることをたくさんの乳がん患者に伝えることができればと思っています

BRCA検査の条件
1.45歳以下の乳がん
2.60歳以下のトリプルネガティブ乳がん
3.2個以上の原発性乳がん(同時性、異時性は  問わない)
4.第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がんの
  家族歴を有する乳がん
5.男性乳がん
  
*近親者
第1度近親者:両親、子供、きょうだい
第2度近親者:祖父母、孫、叔父、叔母、甥、姪
第3度近親者:いとこ、曾孫、甥や姪の子供など
※機序:しくみ
※予後:病気や手術の後、どの程度回復するか見通しを指す言葉

 

医療法人徳州会
和泉市立総合医療センター
腫瘍内科・婦人科
中野 雄介