がん患者がキレイだとヘンですか? キレイは生きる力になる!
はじめに
乳がん治療で脱毛を経験したことがきっかけで、がん患者さん対象のメイクセミナーを始め、13年目になります。とはいえ私の仕事は美容・健康医療の情報発信なので、病気になるまで他人にメイクをしたことも、教えたこともありません。ただ職業柄、こうメイクしたらこう見える、という化粧の理論を知っていたので、眉やまつ毛が抜け、くすみやシミが濃く浮きでたときは、メイクでカバーしました。
体調がよい日に仕事へ出かけたときのことです。私の病気を知らない知人が、「最近きれいになったね」と声をかけてくれたのです。メイクをとったら眉もまつ毛もないのに、 理論通りにメイクしただけで、病気前よりきれいに見えるの?「化粧の力ってすごい!」 その瞬間、「きっと病気を乗り越えられる!」と思え、ずっとオフだった私の「やる気スイッチ」が、オンに切り替わったのがわかりました。長い間美容の仕事をしてきたのに、外見でこんなに気持ちが浮き沈みするとは思わなかった! 同じように外見で落ち込んでいる人の役に立てたらと、「元気に見える」をテーマに手探りでセミナーを始めたのです。
メイクの錯覚ポイントさえ覚えれば簡単
じつは脱毛中も、特別な化粧品や難しいテクニックは不要です。ただ、メイクをすれば必ずきれいになる……、というわけでもない。「素顔は真実」「メイクは錯覚」。元気に見える錯覚ポイントをおさえておけば、病気かそうじゃないかに関係なく。だれでも5〜10分で元気な印象に近づけるのです。錯覚の理論は覚えておくと一生使えるので、お得ですよ。何を隠そう、私は脱毛中だった15年前も今も同じメイク法です。私が考える元気に見えるポイントは以下の7つ。
元気にみえるメイクポイント7か条
- 化粧前に油分を含んだスキンケアでたっぷり保湿する(肌につやを出す)
- 肌全体は薄く、目周りのくすみはしっかりファンデーション類でカバー(疲れた印象を払拭)
- 眉を描く。脱毛中は眉頭を眉骨の位置に描くと自然(表情がはっきりする)
- アイライナー(または濃い色のアイシャドウ)でアイラインを引く(目力がつく)
- 笑った時に筋肉が盛り上がる場所に頬紅を入れる(笑顔が強調される)
- 唇はグロスなどでつややかに(みずみずしい人に見える)
- 仕上げに鏡を見て思いっきり笑う(笑顔筋を鍛える)
いまは、マスク生活ですから、眉と目の周りのくすみカバー、アイラインを細く入れるだけでも印象が違います。まつ毛があるなら、マスカラもどうぞ。オンラインのときは、やや濃い目のチークやグロスも効果的。
メイクは心を外へ向かせる手助けになる
がんという病気と向き合うとき、心を内側に向けるオフの時間はとても大切だと思っています。具合が悪いときは顔なんてどうでもいいことです。ただ、出勤や、オンライン会合、体調が良い日に外出しようかなと思ったとき、メイクは心が外へ向かう後押しをしてくれる。メイクが仕上がった顔を鏡で確認し「よし!」と思う、この瞬間に、人と会う心の準備ができるのです。なぜなら外見を気にするのは、自分が人にどう見られるかを大切にしているから。ただ、外見の価値基準は人それぞれ。見た目がキレイなほうが良い、とは思っていないし、人の目が気にならなければそもそもメイクなんて必要ありません。
「アピアランスケア」を知っていますか?
皆さんは「アピアランス(外見)ケア」という言葉をご存知ですか? 国立がん研究センターに2013年に設立されたアピアランス支援センターが、がん患者の外見支援のために命名しました。アピアランスケア=美容ケアと勘違いされがちですが、実際は「外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」と定義づけられていて、医学的・整容的(美容)・心理社会的な支援を使って、その人が戻りたい社会へ戻すことが目的です。
外見の変化をリカバーする美容は、あくまで手段のひとつ。ただ、自分らしさや自信を見失った時に、ポンと背中を押してくれる力があると確信しています。ぜひその力を活用してほしいと思って活動してきました。
目指すのは がんも外見も隠さなくてもいい社会
と、ここまでメイクの効果を書いてきましたが、じつは私が本当に目指したいのは、がんになっても、脱毛しても、病気や外見の変化を隠さなくても心地よく暮らせる社会です。がんになって大変な思いをしている人をみんなで支えあっていく社会をみんなで作っていきましょう。
美容ジャーナリスト
山崎 多賀子