ピンクリボンNEWS

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2021年 夏号(36号 vol.10 no.2)

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20年間を振り返って ~ピンクリボン活動の展開と乳がん医療の進歩~

【はじめに】

私がJ.POSH理事長の田中完児先生に初めてお会いしたのは2001年、乳がんの勉強をするために訪れたロンドンヒースロー空港でした。ひげを蓄えた若きアジア系の男性にお声をおかけし、田中先生の関西弁マシンガントークにたじろぎながらもピンクリボンへの情熱に私は感染し、福岡市での認定NPO法人ハッピーマンマの立ち上げにつながりました。以来、大阪と福岡のピンクリボンは絡まりながら発展してきました。

【ハッピーマンマ】

私たちは2003年に任意団体(その後認定NPO法人)ハッピーマンマを設立し社会活動を行ってきました。当初はマンモグラフィ検診受診率の向上を目的としていました。しかし世界中のピンクリボン活動で検診受診率を上げることを目的にしたものはほとんどありません。検診を受けるのは当たり前なのです。世界で行われているピンクリボン活動は、乳がんに関する正しい知識と情報の発信、乳がんになった人のサポート・サバイバーシップ支援、そして研究と臨床試験の資金サポートのための寄付を集めることです。 ハッピーマンマは「すでに乳がんに詳しい人ではなく、乳がんになんの関心もない方を巻き込まないと、本当の啓発にならない」と考えて活動を行ってきました。幼稚園や小中学校での講演会、福岡市役所とのコラボレーション、博多どんたくへの参加、医療系学生がチーム医療を学ぶ未来プロジェクト、福岡タワーライトアップ、福岡ソフトバンクホークスとのピンクリボン活動などを行ってきました(https://happymamma.net/)。新型コロナウイルス感染拡大のために乳がん検診受診者は30%減少しています。医療機関は感染対策を徹底しているので、ぜひ乳がん検診を受けていただきたいと思います。

【乳がん治療】

最近の乳がん治療の進歩はめざましいものがあります。局所治療である手術や放射線療法はだんだんと縮小化の傾向にあり、乳房全摘術よりも乳房部分切除術が多くなりました。脇のリンパ節もセンチネルリンパ節に転移がなければ腋窩郭清は省略し、さらに転移が1-2個なら郭清を省くようになってきました。2013年には全摘後のインプラントによる再建術が保険適応になり、より高い質の根治性と整容性、機能性を満たすべき乳がん局所治療が発展してきています。 一方で全身治療は乳がんの生存率改善のために大きく変わってきました。ホルモン受容体とHER2発現状況に基づくサブタイプに応じた治療が行われるようになり、さらに遺伝子レベルで治療薬を考えるゲノム医療が2019年から始まりました。毎年のように新薬が登場していますが、特に2010年からは分子標的薬が増え、最近は免疫チェックポイント阻害薬が承認されています。30種類以上の薬剤は現時点で広く使われており、どの患者さんにどの薬剤が適切か、どの順番で、どのタイミングで使ったらいいか、が大切になってきます。また遺伝子レベルの検査によって術後化学療法が不要な乳がんを見分けることもできるようになっています。 加えて最近の乳がん医療では、病気だけを見るのではなく、がんを患う人全体を診る全人的医療が唱えられ、様々な職種の医療者がチームとなって医療を担当するチーム医療が発展してきています。

【遺伝性乳がん】

2013年に米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がん卵巣がん症候群のために乳房の予防的切除を公表してから世界中で遺伝のことに関心が集まってきました。我が国では2020年4月に乳がん患者さんにおいて遺伝子の検査や対側乳房や卵巣の予防的切除、MRIによるフォローアップが保険承認されました。私たちは、「遺伝子を通して一人ひとりの個性や多様性を認め合い、自身の遺伝学的リスクを知った上で、適切な予防策を選べること」を目指した「Gene Awareness」を進めています。

【おわりに】

日本において悪性疾患にかかったことがあるサバイバーは20人にひとりです(1億2千万人中6百万人)。米国でもほぼ同じで、女性のサバイバーの中で乳癌は41%となっています。がんが当たり前の社会において、がんを患いながら生活している人は就労や経済など大きな問題をたくさんかかえています。彼らをどのようにサポートしていくのか、社会にとって大きな課題です 。 また明日のがん医療・治療は今日よりも良くなっていなければいけません。今と将来が同じでは進歩がありません。しかしその進歩は何もせずに得ることはできず、基礎・臨床研究と臨床試験が不可欠です。海外では、患者さんたち自らが、医療者といっしょに臨床試験を考え、臨床試験が成功するように協力することが広がってきています。 最近は「女性自身が自分の乳房の状態に日ごろから関心をもち、乳房を意識して生活すること」という「Breast Awareness」の重要性が唱えられています。ピンクリボン活動も通して、乳がん撲滅が達成される日が来ることを願っています。

認定NPO法人ハッピーマンマ 代表理事
がん研究会有明病院 副院長・乳腺センター長
大野 真司