患者・市民と医療者が創る未来の乳がん医療 〜Patient and Public Involvement〜
一般社団法人 BC TUBE
認定NPO法人 乳房健康研究会
がん研究会有明病院乳腺外科
山下 奈真(やました なみ)
1.はじめに
今では、2人に1人ががんにかかり、9人に1人が乳がんにかかる時代となりました。自分も含め、決して他人事ではありません。がんを皆で知り、やさしく支え合い、共に生きる社会を目指すことが必要となってきています。
2.患者・市民参画(Patient andPublic Involvement;PPI)とは
PPIは2000年代から英国で最初に採り入れられた考え方で、「患者・市民のために、または患者・市民について研究が行われることではなく、患者・市民と共に、または患者・市民によって研究が行われること」という定義があります*1。
加えて最近では、研究分野(医学研究や臨床試験など)に限らず医療政策の全般において、その意思決定の場に患者・市民の関与を求めるというように考え方が広がってきました。そしてがん医療の現場にもこのような考え方が広まりつつあるのです。
3.日本におけるPPI
日本ではPPIの歴史はまだ浅く、2019年に「患者・市民参画コンソーシアム(Patient and Public Involvement Consortium in Japan)」が設立されました(https://ppijapan.org)。
同コンソーシアムは、「医療・医薬品開発に不可欠なステークホルダーである患者団体、患者支援団体、一般市民及び産官学の相互理解と協働を推進し、関係者のニーズを掘り起こしながら、丁寧なコミュニケーションのもとで活動方針・活動計画を策定し、真の「産患官学」連携を実現する母体となることを目指す」としています。
日本医療研究開発機構(AMED)ではPPIガイドブックが作成されており、PPIがどのようなものか詳しく解説されております*2。
4.身近にあるPPI
なかなか医療政策、研究分野での参画というとイメージが湧きにくいかもしれません。J.POSH(https://www.j-posh.com)では「乳がんで悲しむ人を1人でも少なく」をモットーに20年を超える長い間、日本のピンクリボン活動をリードされてきました。「行政の手の届かぬところを補う」という観点で乳がんで死亡または闘病中の保護者をもつ高校生に対して「奨学金まなび」(無返済)やシッターサポートプログラム、家族で湯ったりキャンペーン、ピンクリボン啓発ティッシュ配りキャンペーン、ピンクリボン検定など多岐にわたる啓発活動をされています。これら活動は患者・市民・企業等からのサポートにより展開されており、患者・市民参画の一形態と言えるでしょう。
私が所属する一般社団法人BC TUBE(https://bctube.org)では、「乳がんを皆で知り、やさしく支え合い、共に生きる社会」を目指し、YouTubeでの乳がんに関する医療情報発信を行っております。BC TUBEでは作成した動画をリリースする前に、100人を超える患者・市民からなる「BC TUBE後援会」の皆様に試聴いただき、わかりやすさという点についてアドバイスいただいた上で最終投稿しております。後援会の皆様の参画なくしてBC TUBEの動画は完成できません。
さらにがん教育の分野では認定NPO法人乳房健康研究会(https://breastcare.jp)のピンクリボンアドバイザー認定制度というものがあります。患者・市民が乳がんについて学び、認定試験をうけてアドバイザーになります。アドバイザーは乳がんを正しく理解し、一人ひとりに寄り添う優しい社会に向けて、家族や知人、職場、地域の人々へ乳がん啓発活動を行います。また、サバイバーの方はがん教育講師としてトレーニングを受けた後に全国の中学校・高校に赴き、それぞれの経験を通じて生徒のがん教育に携わります。がん教育の現場は学校だけに限りません。患者を取り巻く社会全体が教育の現場となります。がん教育には患者・市民の参画が不可欠といえます。
5.さいごに
PPIを通じて新しい価値を見出し、社会に働きかけるチャンスは色々なところにあります。皆さんも未来の乳がん医療、一緒に創りませんか?
BC TUBE後援会:
info@bctube.org
ピンクリボンアドバイザー:
https://breastcare.jp/pinkribbon-a-exam/
J.POSH各種活動:
https://www.j-posh.com/activity/
*1 https://www.learningforinvolvement.org.uk
*2 https://www.amed.go.jp/ppi/guidebook.html
プロフィール:山下 奈真(やました なみ)
2002年東北大学医学部卒業。2009年より九州大学大学院消化器・総合外科 乳腺グループ所属。2013年に医学博士取得。2019年よりダナ・ファーバー癌研究所に研究留学。
留学中に出会った乳腺外科医とともに2020年に一般社団法人BC TUBE(理事)活動開始。
2023年よりがん研究会有明病院乳腺外科にて勤務。
日本乳癌学会評議員。認定NPO法人乳房健康研究会理事。